FIELD LOG
2026.05.02

収穫で品質はどこまで決まるか|選果は効く、糖度神話は覆る

Words by Masa
LAOS

摘み手のベテランは、実を見なくても分かる。指をかけて、軽くひねる。すっと外れれば熟れている。抵抗すれば、まだ早い。だから戻す。この手の感覚が、そのロットの品質を、精製が始まる前からもう半分決めている。コーヒーの味は精製や焙煎で決まると思われがちだが、実際は、どの実をいつどう選んで摘むかで、後から取り返せない差がつく。今日は、収穫にまつわる二つの言い伝えを、農園で確かめた話を書く。

言い伝え①:選んで摘むことに、意味はあるのか

ある。しかも、手の感覚は数字とも合っていた。コーヒーの実は熟すほど枝から外れやすくなる。実測では、熟果が枝から外れる力は2.5〜3.3N、未熟果は4.3〜5.3N。熟果はおよそ半分の力で外れる(Zhou et al., 2025)。「軽い力で取れる実が熟果、抵抗する実はまだ早い」という摘み手の手つきには、ちゃんと根拠があったわけだ。効果もはっきり出る。収穫をシーズンの盛期に合わせると、ある品種で欠点率が11%から4%へ下がり、カップ点も約79から81へ上がった(Huang et al., 2025)。だから私たちは、一度で刈り取らず、何度も畑に入って選んで摘む。手間はかかる。でも、ここで手を抜いた分は、あとで必ず出る。

ラオスの農園で完熟のコーヒーチェリーを選んで摘む手元
軽い力で外れる実が、熟れた実。抵抗する実は、まだ早い。

言い伝え②:チェリーが甘いほど、甘い豆になるのか

これは、畑の常識のほうが覆された。チェリーが熟すと果皮や果汁のスクロース(糖)はほぼ倍増する。ところが、その糖は豆(種子)には移らず、豆の糖は成熟を通じてほぼ一定だった(Baptistella et al., 2024)。しっかり熟した実の中で色の進み(赤橙から深紅、ワインレッド)を比べても、カップ点に意味のある差は出なかった。つまり果肉の甘さと、豆の甘さは、別の話だ。だから私たちはBrix(糖度)を「豆の甘さ」ではなく、「実の熟れ具合」を測る物差しとして使っている※。ここは、測り始めて自分の思い込みを直したところだ。

※ただし、発酵プロセスには極めて重要。

見えない差は、水が選り分ける

選別で全部は取り切れない。最適化した機械収穫でも、熟果を9割以上除きながら未熟果は数%残る。だから摘む段階だけでなく、摘んだ後にもう一度選ぶ。手で分からない差もある。生豆を機械学習にかけた研究では、密度と水分が官能をもっともよく予測する物理特性だった(Gonzalez-Sanchez et al., 2024)。水に浮かべて軽い実を除く浮遊選別は、見栄えの話ではなく、未熟・過熟・病果を除く食品安全の管理点でもある(Codex CAC/RCP 69-2009)。浮く豆は、たいてい何かある、いや、絶対に。

水に浮いたコーヒーチェリーを取り除く浮遊選別の様子
浮く豆はたいてい未熟か欠点。水が選り分けてくれる。

農園での落としどころ

「農園で確かめてみて、二つの言い伝えのうち片方は正しく、片方は思い込みだった。選果は効く。だから何度も畑に入り、選んで摘む。いっぽう、糖度が高いから甘い豆になるとは、もう言えない。Brixは実の熟れ具合を測る物差しとして使う。摘んだあとは、水に浮かべてもう一度選ぶ。」

「摘む前から品質は決まっている。だから何度でも畑に入り、選んで摘む。」

完熟の見極めは完熟のサイン:離脱力で分かる摘みどき、標高の話は標高は品質を決めるのか、数字で管理する全体像はData Bankとは何かへ。摘んだあとの発酵は発酵の4つの段階へ。

参考文献

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