FIELD LOG
2026.08.24

いちごと仕込んだ日|strawberry naturalの現場記録

Words by Masa
LAOS

作業台の上に、真っ赤なピューレの入った白いバケツがある。いちごをブレンダーにかけたものだ。隆にはpHメーターと記録用のノート。これからゲイシャのチェリーと一緒に封入する。strawberry naturalの仕込みの日の記録である。

1. ピューレという選択

ライムはスライスで仕込むが、いちごはピューレにする。理由は二つある。果肉が柔らかく崩れやすいこと。そして液体にすれば、仕込む前に糖度と酸を測れることだ。発酵の初期条件を数値で揃えられる。

ピューレをバケツで温めながら攪拌し、pHを測り、狙いの範囲にあることを確かめてから、チェリーの袋に注ぐ。感覚ではなく数字で始める。ここは普段の発酵管理と全く同じで、果実が加わったからといって特別なことは何もない。

いちごをブレンダーにかける
いちごをピューレに。液体にすれば、測ってから仕込める。

2. 仕込みの日の手順

完熟のチェリーを選別し、袋に入れる。いちごのピューレを計量して注ぎ、全体を馴染ませる。空気を押し出して封をする。あとは嫌気発酵のセオリーどおり、温度を低く保ち、pHと匂いを監視しながら進行を見守る。果実の糖が加わっている分、発酵は勢いよく進む。止めどきの監視は普段より短い間隔で行う。

発酵を終えたチェリーは、乾燥棚でゆっくり乾かす。ここから先はナチュラルと同じ道だ。

3. まだ実験の途中である

正直に書いておくと、strawberry naturalは完成形ではない。果実の熟度、ピューレの量、発酵の深さ。振れる変数が多く、仕込みごとに結果は動く。だから毎回、配合と数値を記録している。うまくいった年の条件を次の年に渡せるように。実験と商品の境目は、記録があるかどうかだと思っている。

そしてこの実験には先例が少ない。だからこそ面白い。ラオスの農園で、ラオスで手に入る果実を使って、自分たちの味を探す。失敗も含めて、この記録は続けていく。

4. 発酵という翻訳機

果実を加えた発酵で何が起きるかは、共発酵の研究が支えになる。微生物の組み合わせと基質の設計で揮発性成分の生成が変わり、フルーティで発酵的な香りが強まる(Bruno et al., 2024)。いちごの味が直接移るのではなく、いちごの糖と香気前駆体を微生物が作り替え、その産物が豆に残る。発酵は翻訳機であってコピー機ではない。だから出来上がりは「いちごキャンディ」ではなく、赤い果実のニュアンスをまとったコーヒーになる。


よくある質問

いちご味のコーヒーになるのですか

いちごキャンディのような味にはなりません。発酵を通して、赤い果実のニュアンスと発酵由来の複雑さが加わります。風味はあくまでコーヒーの延長線上にあります。いちごキャンディのような味にするためには、濃度勾配を利用したインヒューズドにする必要があります。

なぜピューレにするのですか

果実のままより糖と香気が発酵液全体に均一に広がり、ロット内のむらが減るからです。液体にすれば糖度と酸を測ってから仕込める利点もあります。

毎年同じ味になりますか

まだ実験を重ねている段階です。果実の熟度や発酵温度で結果は動くため、仕込み毎に配合と数値を記録し、年々再現性を高めています。

ライムの仕込みはライムと一緒に発酵させた話、見分けの基準は共発酵とインフュージョンの見分け方、発酵の基礎は発酵の4つの段階へ。

参考文献

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