「浅煎りは酸っぱくて苦手」という人に会うたび、もったいないと思う。味覚が幼いのではない。合わない浅煎りに当たっただけだ。農園の立場から、酸の正体と、選び直すための処方箋を書く。
焙煎が浅い段階では、畑由来のクエン酸・リンゴ酸とクロロゲン酸(CGA)が多く残っている。焙煎を進めるとCGAは強焙煎でほぼ痕跡量まで減る(Moon & Shibamoto系, 2009)。面白いことに、抽出液のpHは焙煎の進行で単調には動かない。ある段階まで下がり、その先で上がる。CGAが分解されてカフェ酸やキナ酸に変わるためだ(Foods, 2024)。「深煎り=酸ゼロ」ではなく、酸の種類が入れ替わっていく。
苦味の化学も意外だ。苦味の主役はカフェインではなく、焙煎で生まれるCGAラクトン(浅〜中煎りの穏やかな苦味)と、さらに焙煎を進めると現れるフェニルインダン(深煎りのharshな苦味)だと同定されている(Hofmannら, 2007)。つまり浅煎りと深煎りは、同じ苦味の強弱ではなく、別の苦味を飲んでいる。
そしてもう一つ。不快な「尖った酸っぱさ」の多くは、浅煎りそのものではなく未発達(焙煎不足)のサインだ。未発達の焙煎は草・穀物様の風味と、甘さに接続されない攻撃的な酸を持つ。良い浅煎りは、明るい酸と甘さが接続されている。
レバー1:精製を変える。ウォッシュドの浅煎りが酸っぱく感じたなら、ナチュラルやハニーを試す。果肉の糖が作る甘さの土台が、酸を包んでくれる。
レバー2:品種を変える。酸の輪郭が穏やかな品種がある。華やかさで選ぶならゲイシャ系、穏やかさならカティモール系のナチュラル。品種は酸の質の土台を決める(BMC Plant Biol., 2024)。
レバー3:焙煎度を半歩だけ動かす。浅煎りが合わなければ、いきなり深煎りへ飛ばず中浅煎り〜中煎りを挟む。クエン酸・リンゴ酸が程よく分解され、甘さとの接続が良くなる。
レバー4:発達を確かめる。同じ「浅煎り」表示でも、作り手によって発達の度合いは全く違う。草のような風味がしたら、それは浅煎りのせいではなく未発達のせいだ。
酸が苦手な人に私たちがすすめるのは、ナチュラルかハニーの中煎り寄りだ。甘さの土台が大きく、酸は果実感の一部として溶ける。逆に、酸の輪郭を楽しめるようになったら、ウォッシュドの浅煎りへ進んでほしい。澄んだ酸の向こうに、畑の個性が見えてくる。
浅い段階ではクエン酸やリンゴ酸が多く残っているからです。焙煎が進むとこれらは分解され、代わりに苦味成分が形成されます。ただし不快な酸っぱさの多くは焙煎不足(未発達)や豆の欠点に由来します。
あります。ナチュラルやハニーなど甘さの土台が大きい精製、酸の穏やかな品種、やや中煎り寄りの焙煎度を選ぶと、酸が甘さに包まれて飲みやすくなります。
主役ではありません。研究では苦味の主役は焙煎で生まれるクロロゲン酸ラクトン(浅〜中煎り)とフェニルインダン(深煎り)とされています。カフェインは焙煎度によらずほぼ安定です。
酸味の良し悪しは「いい酸味」と「悪い酸味」は化学的に別物だ、甘さを作る精製はナチュラルとハニー、澄んだ酸の方式はウォッシュドへ。
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