2026年12月30日。この日から、EUにコーヒーを売る大企業は、その豆が育った畑のGPS座標を提出できなければならなくなる。EU森林破壊防止規則、通称EUDR。遠いブリュッセルの規則のように聞こえるが、これは畑の上の規則だ。小さな農園の側から、中身と意味を書く。
EUDRは、コーヒー・カカオ・パーム油・牛・大豆・ゴム・木材の7品目について、2020年12月31日以降の森林破壊に由来しないことの証明をEU輸入の条件にする。適用は大企業が2026年12月30日、零細・小企業が2027年6月30日。一度延期されたが、この日程は確定と欧州委員会が明言している。
核心は第9条だ。生産に使われたすべての土地プロットのGPS座標(ポリゴン)をデューデリジェンス声明に含め、EUのシステムに提出する。座標のない豆は、書類上存在できない。つまりこの規則は、畑の座標をコーヒーのパスポートに変える。
世界のコーヒー農家は約2,500万。その約8割が小規模農家だ。そして複数の調査が、世界の小規模農園の8割超がデジタルな位置情報を持っていないと推計する。コストの試算も出ている。500農家の協同組合で約10万〜20万ドル。簡素化後でも小規模サプライチェーンでトンあたり€25〜50。
ここに規制の非対称がある。ルールを作るのは消費側だが、対応の手間と費用は川上、つまり最も資金力のない層に落ちる。目的(森林を守る)は正しい。しかし手段のコスト負担がこのままなら、真面目な小規模生産者ほど市場から静かに退場するという皮肉が起きかねない。支援の動きも始まっているが(2026年6月には無償のジオロケーションツールも登場)、まだ入口にすぎない。
では、私たちのような小さな農園にとってEUDRは災厄なのか。私たちは逆だと考えている。条件付きだが、チャンスである。
理由は構造にある。何千もの小規模農家から豆を集めて混ぜる従来型のサプライチェーンでは、全プロットの座標を集めるのは悪夢のような作業になる。一方、自社管理の農園で、ロットごとに記録をとり、どの畑の豆がどの袋に入ったかを追える体制なら、要求されていることの多くはすでに日常業務の延長線上にある。私たちが全ロットでpHや水分値を測り、記録を残してきたのは味のためだが、同じ仕組みがそのまま「由来の証明能力」になる。記録する農園にとって、EUDRは参入障壁ではなく参入障壁の向こう側への切符になりうる。
ラオスの農園の位置情報の整備も、この流れの中で進めている。完了したら、このブログで報告するつもりだ。
EUは世界のコーヒーの約4割を輸入する。その市場が「由来を証明できる豆」しか受け入れなくなるということは、世界中の取引慣行がそちらに引っ張られるということだ。日本の棚に並ぶ豆も例外ではない。「どこの誰が作ったか分かる豆」と「分からない豆」の間に、これからはっきりと価格差がついていく。
そのとき、あなたの一杯の向こうにいる生産者が見えるようになっているか。それがこの規制が市場に残す、たぶん一番大きな変化だと思う。
EUの森林破壊防止規則です。2020年末以降の森林破壊に由来しないことの証明を、コーヒーを含む7品目のEU輸入に義務付けます。大企業は2026年12月30日、零細・小企業は2027年6月30日から適用されます。
生産した全プロットのGPS座標(ポリゴン)と、由来を遡れる記録です。この情報がない豆は、EU向けのデューデリジェンス声明に載せられず、事実上EU市場に入れなくなります。
あります。EUは世界のコーヒーの約4割を輸入する市場で、そこでのルールは世界の取引慣行を変えます。トレーサビリティのある豆とない豆の価格差は、日本の棚にも徒々に反映されていきます。
記録という資産の話はData Bankとは何か、由来に値段がつく時代の話は「どこの誰が作ったか」に値段がつく時代、価格高騰の構造はコーヒーはなぜ高くなったのかへ。
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