LAB REPORT
2026.06.17

ナチュラルプロセスとは?|原始的で、いちばん難しい

文・Masa
LAOS

今回は、最も原始的でありながら、なかなか難しい精製、ナチュラルプロセスについて書く。そもそもナチュラルとは何か、どんな特徴があるのか、なぜ難しいのか。そして「乾かすだけ」に見える工程の中で、本当は何が起きているのか。この記事を読めば、ナチュラルの基本と奥行きがわかる。

1. ナチュラルは、自然派の精製なのか

糖度が20%を超えるコーヒーチェリーは、立派な甘い果実だ。それなのに、ほとんどの人は脇目も振らずに種を取り出す。可食部がほんの数%しかなく、満足するまで食べるには面倒な果実だからだ。しかし、その果実と種をまるごと使って精製すると、果実感を存分に味わえる豆になる。それがナチュラルだ。私たちの定義はシンプルで、「完全なチェリーをそのまま発酵・乾燥させる」。木についたまま乾いたチェリーも、地面に落ちて乾いたチェリーも、ベッドで丁寧に乾かしたチェリーも、広く言えばすべてナチュラルである。

麻袋の中の深く色づいたコーヒーチェリー
糖度が20%を超える、立派な甘い果実。

2. 原始的なのに、なぜ難しいのか

21世紀のいまも、ラオスの農家にナチュラルは好まれない。理由は主に三つだ。

1. カビのリスクが高い。ラオスの収穫期は乾季だが、標高の高い農園では乾季でも雨が降る。天日干しがなかなかできないと、水分をたっぷり含んだチェリーは一瞬でカビる。
2. 時間がかかる。ウォッシュドのパーチメントは2〜3週間で乾くが、ナチュラルは1.5〜2.5ヶ月かかる。
3. 場所をとる。丸ごとのチェリーはパーチメントより大きく、乾燥場が渋滞する。乾燥場が埋まっても、チェリーは熟すのをやめない。

乾燥を終えたナチュラルのコーヒーチェリー
丸ごと乾いたチェリー。ここまで来るのに1.5〜2.5ヶ月かかる。

3. ナチュラルは「乾かすだけ」ではない(研究の話)

ナチュラルの本質は、乾き始めの数日にある。乾燥の初期、果肉の中では微生物による発酵が進んでいる。乾式でも発酵時間が長くなるほどpHは下がり酢酸が増え、長すぎると良い焙煎香のもと(ピラジンやフラン系)が減ることが確かめられている(Galarza et al., Molecules 2022)。つまりナチュラルの設計変数は「乾燥速度×発酵時間×酸素」だ。天日でゆっくり乾かせば自然の発酵が進み、速く乾かせば発酵は抑えられる。どちらが正解という話ではなく、狙う味に向けて選ぶ。

乾燥そのものの科学も面白い。パーチメントの薄層乾燥を温度と湿度で振った実験では、同じ温度でも空気の湿度が上がると水分の抜け(拡散係数)が目に見えて遅くなった(Phitakwinai et al., Food Science & Nutrition 2019)。乾燥を速めるのは「温度を上げる」ことより「乾いた空気を当てる」こと。雨の多い高地でナチュラルが難しい理由は、ここにもある。ちなみにマイクロ波乾燥なら数分で乾くという報告もある(Kusmiyati & Fudholi 2022)。それでも私たちが日単位で乾かすのは、速さと引き換えに失われるものがあるからだ。乾燥日数は非効率ではなく、味の設計変数である。

4. 乾燥の速さが、味を決める

1.5〜2.5ヶ月という幅には意味がある。ナチュラルは、微生物が果肉・ミューシレージを分解しながら乾燥に入る。どれだけ時間をかけるかで味が変わり、早く乾かせば比較的クリーンで爽やかな甘さ、ゆっくりならワインのような重厚感になる。丸ごと乾かす間に、果肉の糖が濃縮し(レーズンのように)、その甘い果実感が豆に移っていく。ただし、ゆっくりは危険と隣り合わせだ。乾燥が長引くほど、水分活性(aw)の高い時間が続き、カビ毒(OTA)のリスクが上がる(Saengrayap et al., Foods 2024)。だから「ゆっくり」は「放置」ではない。毎日ひっくり返し、雨が来れば覆い、水分値とawを見ながら攻める。攻めながら守る、それがナチュラルだ。

5. もはや「ナチュラル」ではない、ナチュラル

ナチュラルにも派生が多い。近年ラオスでは、サビ病や害虫に強いカティモール(ティモール×カトゥーラ)の栽培が盛んだ。栽培しやすく豆も大きいが、ティピカなどに比べフレーバーやボディは劣り、自然なナチュラルで高品質を出すのは難しい。これはラオスに限らず、コロンビアなど世界中で同じだ。

そこで登場するのが嫌気性発酵だ。酸素を遮って発酵させると、より複雑でエキゾチックな香りになる。ほかにも、麹菌を使うKoji Fermentation、酵母を使うYeast Inoculatedなど、培養した微生物の力を使う精製が増えている。こうした「良い株を選んで入れる」やり方は、再現性の面でも研究が進んでいる。スターター(種菌)を測って最適化し、由来の合った株を選ぶと、標準化と差別化を両立しやすい。私たちも実験として麹を試しているが、ラオスのチェリーに合う麹菌はまだ見つけられていない。おすすめの麹菌とレシピがあれば、ぜひ教えてほしい。

6. アロマやフレーバーの特徴

三大精製で比べると、ナチュラルは口当たりがまろやかで重厚感があり、飲んだ後も口いっぱいに甘さが続く。フレーバーはアメリカンチェリーやラズベリーのような、赤く熟した果物を連想させる。程よい酸と果実感たっぷりのコーヒーになることが多い。お菓子なしでも少しリッチな気分になりたい人におすすめだ。


よくある質問

ナチュラルはなぜ1.5〜2.5ヶ月もかかるのですか

丸ごとのチェリーは果肉ごし乾かすため乾燥が遅く、意図的にゆっくり乾かすことでワインのような重厚感を作るからです。乾燥日数は非効率ではなく、味を設計する変数です。

ナチュラルはカビが心配ではないですか

リスクはあります。乾燥が長引くほど水分活性の高い時間が続きカビ毒のリスクが上がることが研究で示されています。だから毎日の天地返しと雨対策を行い、水分値と水分活性を測って管理します。

ナチュラルは乾かすだけの精製ですか

違います。乾き始めの数日は果肉の中で発酵が進んでいます。乾燥の速さが発酵の程度を決め、長すぎると酢のような酸が増えて良い焙煎香が減ることが研究で確かめられています。

発酵の仕組み全体は発酵の4つの段階、乾燥の止めどきは乾燥の科学へ。洗って作る方式はウォッシュド、間をとる方式はハニー、密閉して作る方式は嫌気性発酵へ。

参考文献

  • Galarza et al. (2022). Molecules 27:2004.
  • Phitakwinai et al. (2019). Food Science & Nutrition 7(9). 10.1002/fsn3.1144
  • Kusmiyati & Fudholi (2022). Mathematical Modelling of Engineering Problems 9(4). 10.18280/mmep.090427
  • Saengrayap R. et al. (2024). Foods 13(15):2331. 10.3390/foods13152331
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