味と香りのバランスが良い精製、それがハニープロセスだ。三大精製の一つでありながら、ウォッシュドやナチュラルに比べると影が薄い。理由の一つは、農家がハニーを嫌がるからで、ラオスでも生産量は少ない印象だ。しかしハニーは、ウォッシュドとナチュラルの良いとこ取りで、私たちのカフェでは最も人気のプロセスである。
私たちが定める定義は次のとおり。
1. チェリーをパルピング(脱皮)し、
2. 果肉(ミューシレージ)がパーチメントに付着した状態で、
3. 発酵・乾燥させる。
ここまではウォッシュドと同じで、違いは「洗わない」ことだ。屋外やビニールハウスで日光を使い、発酵と乾燥が同時に進む。生豆の水分値が11%前後になるまで、2〜3週間かけて仕上げる。
この精製が「ハニー」と呼ばれる理由には諸説ある。発酵中のミューシレージがハチミツのような香りを出す、粘着度がハチミツみたい、色がハチミツみたい。毎年ハニーを作る経験から言えば、どれもその通りだ。発酵中のミューシレージは、ハチミツトーストのような甘い香りがする。ある程度まで乾くまでベトベトで、一度触るとなかなか剥がれない。無色だったミューシレージは、発酵で徐々に黄色くなる。
世の中には「レッドハニー」「ブラックハニー」など、さまざまなハニーがある。この違いは、残すミューシレージの量(残存率)だ。「ハニー」は一色ではなく、残存率という連続的な設計変数である。精製方式を横並びで比べた研究では、粘液を多く残すブラックハニー寄りの方式はボディとバランスが上がり、嫌気発酵に近い官能になった(Chen et al., Foods 2026)。一方で、香気の相対量は中〜高残存(レッドハニー域)でピークになる可能性も報告されている。つまりボディ狙いなら高残存、香気狙いなら中〜高残存、と狙いで設計を変えられる。
さらに面白いのは、残す量で働く微生物まで入れ替わることだ。粘液が少ないと細菌が、多いと真菌(酵母・カビの仲間)が香気形成に活発になるという報告がある。ミューシレージは微生物のエサであり、その量で発酵の生態系そのものが変わる。ラオスの農園には数ミリのミューシレージを機械で精密に調整する設備はないので、私たちは「ハニープロセス」とだけ記している。ただ、残存率は色や粘りで見当がつくし、Brixや水分値でも近似できる。
ハニーの「甘さ」の正体も、研究で分解されつつある。甘さの源は糖(残ったミューシレージと品種由来の炭水化物)、酸の源は豆に元からある有機酸と発酵で作られる有機酸だ(Tenea et al., Frontiers in Microbiology 2025)。そして発酵は糖を酸に変えていく。ミューシレージの発酵を追った実験では、Brixが15.8から8.45に減る間に酸度がほぼ倍増した(Plaza-Dorado et al., Fermentation 2024)。つまりミューシレージの残存率は「糖の持ち札」の量であり、発酵の時間と温度は「その糖をどこまで酸に振るか」のレバーだ。両方の掛け算で、最終的な甘さと酸のバランスが決まる。
ハニーのミューシレージは粘着質で、乾燥場をベトベトにする。発酵・乾燥中は1日に3度パーチメントを天地返しするので、その度に手も器具もベトベトだ。乾燥ベッドにも付着し、バッチごとに大掃除になる。天地返しが甘いとカビが生え、体に悪いので廃棄になる。発酵とカビは紙一重で、毎年数十キロが廃棄される。農家・精製者としてはハニーが嫌いだ。一方、カフェやロースターとしては、甘さと酸のバランスが良いハニーが大好きである。
果肉を残すハニーは、乾燥と保存に少し気をつかう。ミューシレージが残るぶん、乾きムラや水分活性(aw)の高い時間が生まれやすいからだ。awが高い時間が長引くと、カビ毒(OTA)のリスクが上がる(Saengrayap et al., Foods 2024)。だから水分値だけでなくawも見て、目安まで下げてから保管に回す。甘さを狙う方式ほど、安全の詰めが効いてくる。
ハニーのコーヒーは、すっきりしながらも際立つ甘さがあり、とろっとした質感の、デザートのような一杯だ。私たちは「ハニー」と「アナエロビックハニー」の2種を扱う。前者は上品な甘さが押し寄せ、後者はトロピカルフルーツのような複雑な酸を持ちながら、すっきりした後味に仕上がる。
残すミューシレージ(果肉)の量の違いです。多く残すほど色が濃くなり、ボディやバランスが上がって嫌気に近い味わいになることが研究で示されています。ハニーは一色ではなく、残存率という連続的な設計変数です。
入っていません。発酵中のミューシレージがハチミツのような色・香り・粘りになることから付いた名前です。甘さは果肉の糖と発酵のバランスから生まれます。
粘着質のミューシレージが作業と掃除の負担を増やし、天地返しが甘いとカビで廃棄になるため、農家にとって手間とリスクが大きい方式だからです。その分、うまく仕上がったハニーは甘さと酸のバランスに優れます。
発酵の仕組み全体は発酵の4つの段階、乾燥とawの話は乾燥の科学へ。洗って作る方式はウォッシュド、丸ごと乾かす方式はナチュラルへ。
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