スーパーの棚でもカフェのメニューでも、コーヒーの値上がりが続いている。「なぜ高くなったのか」という問いに、産地の側から、検証できる数字だけを使って答えてみたい。そしてもう一つ。相場高騰が、産地にとって単純な朗報ではないという話も書いておきたい。
アラビカの先物価格(ニューヨークICE)は、2025年2月に史上最高値の1ポンドあたり4.41ドルを記録した。2024年の1年で約7割上がり、2025年に入ってさらに上げた末の数字だ。2020年初頭の水準の3倍超である。
2026年は一転して乱高下になった。6月9日には約2年ぶりの安値(2.39ドル台)まで下げたかと思えば、月末には2ヶ月ぶり高値に反発。国際コーヒー機関(ICO)の総合指標で見ても、数週間で−数十%→+17%と振れている。上がったまま激しく揺れる。これが今の相場の姿だ。
高騰の主因は投機ではなく供給だ。世界供給の約半分を担う二大産地が、同時に気候に殴られた。
ブラジルは2024年、主産地ミナスジェライスを中心に干鬃と高温に見舞われた(USDAの年次レポート)。コーヒーの木は干鬃で開花が乱れ、その影響は翌季・翌々季の収量に残る。ベトナムは2023/24年度の収穫が前年比2割減の2,450万袋(業界団体VICOFA発表)と、過去10年で最小級に落ち込んだ。翌季も回復していない。
果樹の傷は一年では治らない。だから2026/27年にブラジルの豊作予測が出て相場が緩んでも、収穫の遅れや在庫の薄さが伝わるたびに跡ね上がる。在庫というクッションが薄くなった市場は、小さなニュースでも大きく揺れる。
ここからは農園の話。「相場が上がって良かったですね」と言われることがある。半分だけ当たっている。確かに売り手にとって追い風の局面はある。しかし現場では、見え方が違う。
第一に、上がったのはコーヒーの価格だけではない。肥料も資材も人件費も上がった。第二に、乱高下は投資判断を狂わせる。今年の高値を見て植えた木が収穫を迎える3年後、相場がどこにいるかは誰にも分からない。第三に、そもそも不作の産地には、高値で売る豆そのものがない。高騰の発端が減産である以上、これは当然のことだ。
つまり相場高騰の利益は、在庫を持つ者と、たまたま豊作だった者に落ちる。気候に殴られた当の産地には、思うほど落ちない。この非対称は、もっと知られていいと思う。
私たちのような小さな農園が乱高下の時代を生き延びる道は、相場の内側ではなく外側にあると考えている。品質と記録を根拠に、飲み手やロースターと直接価格を作ることだ。先物相場は天候と投機で動くが、「この農園の、このロットの価値」は品質で動く。そして品質は、相場と違って自分たちの努力で制御できる。
値上がりのニュースに疲れたら、思い出してほしい。一杯の向こうには、相場ではなく畑がある。そして畑の価値は、数字で記録できる。
断定はできませんが、気候による供給不安は構造的で、樹体のダメージは2〜3年残ります。業界では「高止まりと乱高下が新常態」という見方が共通認識になりつつあります。
相場の恩恵を受ける生産者もいますが、肥料・資材・人件費も同時に高騰し、乱高下は翌季の投資判断を狂わせます。不作で売る量自体がない産地もあります。
影響は受けますが、相場連動の度合いは小さめです。品質と信頼に基づく直接取引の価格は、先物市場の乱高下より穏やかに動きます。
規制の側から見た市場の変化は小さな農園から見たEUDR、記録で価値を作る話はData Bankとは何か、高騰時代の品質の守り方は相場が2倍になっても、品質を落とさないためにへ。
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