今回は、すっきり爽やかで万人受けするウォッシュドプロセスについて。そもそも「ウォッシュド」とは何か、何を洗っているのか、なぜ澄んだ味になるのか。発酵の「ちょうどいい時間」は何時間なのか。この記事を読めば、ウォッシュドの基本から、最新の研究が明かした中身までがわかる。
ウォッシュドは、名前のとおりコーヒー豆を洗ってから乾かす精製だ。私たちが定める定義は次のとおり。
1. チェリーをパルピング(脱皮)し、
2. ミューシレージ(果肉のぬめり)が付いたパーチメントの状態で水の中で発酵させ、
3. 果皮・果肉の残りが綺麗に無くなるまで洗浄し、
4. 乾燥させる。
収穫後、チェリーは一度洗われ、パルピングでミューシレージ付きパーチメントになる。この後に発酵段階を挟み、洗わずに乾かせばハニー、洗えばウォッシュドになる。
気になるのは発酵の部分だろう。ミューシレージ付きパーチメントを発酵させる方法は、大きく2つある。
1. 発酵槽にパーチメントだけを入れる(乾式発酵)。終了の目安は、粘着質なミューシレージが手につかなくなるまで。
2. 発酵槽にパーチメントと水を入れる(水中発酵)。終了の目安は、ミューシレージがパーチメントから剥がれるまで。
違いは水を入れるかどうかだ。どちらを20〜36時間ほどで発酵を終える。できる限り長くゆっくり発酵させるほどフレーバーは向上するが、36時間を超えるとカビの危険が大きく上がる。逆に短すぎると、微生物が十分に発達する前に終わり、草のようなフレーバーになる。だから私たちは20〜36時間に設定している。水を多く使うほど糖分が流れ出すので、微生物のエサが不足しないよう注意もいる。
私たちの「20〜36時間」は経験則だが、近年はこの最適点を正面から測った研究がある。雲南のアラビカを開放環境で水洗発酵させ、発酵時間だけを振って比べた実験では、36時間のロットがカップ評価の最高点(77.25点)をとり、短すぎても長すぎても劣った(Yuan et al., Fermentation 2024)。発酵には山の頂上がある。手前で降りても、通り過ぎても、カップは落ちる。
ただし、この最適点は固定された数字ではない。温度が高ければ同じ地点に早く着くし、密閉するか開放するかでも動く。だから時間ではなく、進み具合そのものを測る。発酵のpHは16時間で約4.5、36時間で約4.0まで下がるという基準線があり(De Bruyn et al., AEM 2017)、私たちはこの下がり方を速度計にして止めどきを決めている。時計だけでは、暑い日に過発酵へ踏み込みやすい。
水洗の発酵槽で主導権を握るのは乳酸菌だ。水洗発酵の微生物を追った研究では、WeissellaやLeuconostocといった乳酸菌が発酵を通じて増え続け、発酵を引っ張っていた(Shen et al., Molecules 2023)。乳酸菌は糖を乳酸に変える。これがウォッシュドの「きれいな酸」の正体の一つだ。適切な範囲の発酵では乳酸・酢酸・リンゴ酸といった良い酸が生成され、過発酵まで行くと酪酸やプロピオン酸のようなオフフレーバーの酸が出る(Martins et al., Front. Microbiol. 2019)。
同じ研究は、気になることも教えてくれる。発酵槽の真菌の中には、カビ毒(OTA)の原因になりAspergillusも含まれ得る(Shen et al., 2023)。だから水洗の設計はこう要約できる。乳酸菌主導の発酵を、適切な時間で止め、清潔に、速やかに乾かす。派手さはいらない。規律が要る。
ウォッシュドがクリーンな味になるのには理由がある。ミューシレージを早い段階で除くため、果肉由来の発酵香(エステルなど)が少なく、豆そのものの明るい酸が前に出やすい。
発酵槽の中で何が起きているかは、数値でも見える。ミューシレージの発酵を追った実験では、発酵の進行とともにBrix(糖)が15.8から8.45に減り、酸度は20.02かも42.69 mg/gへとほぼ倍増し、pHは4.47から4.05に下がった(Plaza-Dorado et al., Fermentation 2024)。つまり発酵とは、糖が酸に変わる工程そのものだ。どこまで変えるかを止めどきで決めるのが、作り手の仕事になる。
洗浄や浸漬(ソーキング)は、ただの後片づけではない。浸透圧によって単糖や微生物の代謝産物を豆の周りから洗い出し、酸を下げてマイルドに、そしてロットを均一に整える働きがある(De Bruyn et al., AEM 2017)。個性を残したければ浸漬は控えめに、クリーンさと均一さを狙うなら浸漬を効かせる。設計で選べるレバーだ。
面白いのは、こうした方式の違いが「指紋」として豆に残ることだ。水中発酵のコーヒーには特徴的な香気成分(2-メチルピラジンやフルフリルアセテート)が確認され、近赤外分光や電子鼻と機械学習を組み合わせると、精製方式を90%を超える精度で識別できた(Suleria et al., Fermentation 2023)。「どう作られたか」は、もう自己申告ではなく、測って確かめられる時代に入っている。
ウォッシュドは水を使う方式だ。だから水の質と量に気をつける。汚れた水で発酵・洗浄すれば、雑菌やオフフレーバーの原因になる。クリーンなカップは、クリーンな水から始まる。使った水は、そのまま流せば環境負荷になるので、できる範囲で循環や処理を考える。捨てるはずの果肉や発酵液も、次の発酵の種(スターター)として活かせる場合がある。水を大事にすることは、味と環境の両方を守ることだ。
私たちが力を注いでいるのが、モストを使ったウォッシュドだ。モストとは、嫌気発酵の際に出るチェリーのジュースで、熟したチェリーの糖分と、そこで育った微生物が詰まっている。発酵環境が始めから整ったモストは、発酵にとって理想的な状態だ。これにパーチメントを漬け込み、最後にミューシレージを洗い流すと、モスト由来の複雑さを持ったウォッシュドになる。詳しくはモストの記事へ。
ウォッシュドのコーヒーは、すっきりとした軽い口当たりと、飲んだ後に鼻から抜けるフルーティさが特徴だ。寝起きの一杯にも、ランチ後にさっぱりしたいときにもいい。同じウォッシュドでも、生産農園や品種によって大きく異なるので、商品ページのアロマ・フレーバー・ボディも見てほしい。
環境で動きますが、開放環境の研究では36時間がカップ評価の最高点で、短すぎても長すぎても劣りました。私たちは20〜36時間の範囲で、時間ではなくpHを見て止めます。
ミューシレージを早い段階で除くため果肉由来の発酵香が少なく、乳酸菌主導の発酵できれいな酸が作られ、洗浄・浸漬が余分な成分を洗い出して味を均一に整えるからです。
発酵槽に水を入れるかどうかの違いです。水中発酵は温度が安定しやすく、研究では特徴的な香気成分が確認されています。ただし水を多く使うほど糖分が流れ出るので、微生物のエサ不足に注意が要ります。
発酵の仕組み全体は発酵の4つの段階、pHでの管理は発酵を数値で管理するへ。洗わずに乾かす方式はナチュラルとハニーへ。
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