コーヒーの世界には「標高が高いほど良い」という通説がある。標高が高い、というだけで品質の証のように語られることも多い。一人のコーヒー愛好家として、少しでも標高が高い方が「美味しそう」とは思う。また、農園主としては少しでも標高が高いほうが、ちょっと誇らしい気持ちになれる。ただし、この通説はもう少し正確に言い直したほうが良い。研究を並べて確かめる。
標高と品質の関係を化学組成まで測った研究がある。標高が上がるほど、生豆のpHは下がり、苦味のもとになるクロロゲン酸は減り、甘さの前駆体であるスクロースは増えた(標高との相関係数はそれぞれR=−0.85/−0.94/0.91。Rは±1に近いほど関係が強い。Urugo et al., 2024)。
ここで大事なのは、酸の総量そのものはむしろ気温と相関し、標高だけでは増えなかったという点だ。「高地=酸」はpH(酸の強さ)の話で、酸の総量とは別の話である。同じ「酸」という言葉で、違うものを指していたということだ。
品質を左右しているのは、標高そのものより気温の低さだと分かってきている。気温が低いと成熟がゆっくり進み、糖や香りの前駆体が蓄積する。低温の環境では、高温の環境に比べて成熟が約4週間延びたという報告もある(Cassamo et al., 2022; Ramalho et al., 2018)。
標高は、その低温をもたらす一つの条件にすぎない。同じ標高でも、夜の気温や日較差が違えば結果は変わる。だから「何mの農園か」ではなく、「その園の夜はどれだけ冷えるか」で語るのが正確だ。
私たちのように緯度の低い東南アジアでは、同じ標高でも気温が高い。低緯度インドネシアの実測では、標高700mの豆はカッピング評価(SCA方式・100点満点)で80点前後、標高1,250mでは82〜84点と、スペシャルティの一線をまたぐ差が出ている。また、甘さの前駆体であるスクロースは、700mの豆に比べて1,250mの豆で約2.4倍だった(Nugroho et al., 2020)。低緯度でスペシャルティを狙うなら、目安として概ね1,200m以上の高さが必要である。
もう一つ、暑さを冷ます手段が木陰だ。木陰は日なたに比べて最高気温を3〜5℃下げ、成熟をゆっくりにする(Koutouleas et al., 2022)。標高が足りない暑い区画ほど、木陰の値打ちが大きいということだ。標高は変えられないが、木陰は設計できる(長期計画が必要になるが...)。
「農園の標高を品質の看板にはしない」と言いそうになるが、正直に書けば、農園の位置は移動できないし、新しい農地を簡単に取得できるわけでもない。標高が高いほうが有利な状況は、確かに整っている。
ただその上で言うなら、朝晩の気温差やシェードの入り方をコントロールできるように設計した農園のほうが、実の詰まりに効いている実感がある。標高は与えられた条件だが、気温はある程度まで作れる。だから見ているのは、その土地でどれだけゆっくり、均一に熟したかのほうだ。
標高は分かりやすい数字だ。だから看板になりやすい。しかし、同じ標高でも味は全く違う。差を作っているのは、夜の冷えと、日較差と、木陰と、その結果としての成熟の遅さだ。数字一つで語れるほど単純ではないからこそ、測って記録する意味がある。
正確には違います。標高が上がるとpH(酸の強さ)は下がりますが、酸の総量はむしろ気温と相関しており、標高だけでは増えません。
低緯度のインドネシアの実測では700mと1,250mでカップ評価がスペシャルティの一線をまたぐ差になりました。目安としてはおおむね1,200m以上です。
木陰が有効です。木陰は日なたに比べて最高気温を3〜5℃下げ、成熟をゆっくりにすることが示されています。標高が足りない暑い区画ほど、木陰の価値が大きくなります。
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