発酵で酸が増える、というのは正しい。ただ、それだけでは半分しか言っていない。大事なのは、どの酸が、いつ生まれるかだ。良い酸とオフフレーバーの酸は、同じ発酵の違う段階で生まれている。
微生物を一種類ずつ接種して、どの菌がどの酸を作るかを切り分けた研究がある。結果ははっきりしていた。リンゴ酸・乳酸・酢酸は細菌を接種した区でのみ検出され、無接種の対照区ではゼロだった。コハク酸は細菌区に加えて一部の酵母区でも検出されている(Martins et al., Front. Microbiol. 2019)。つまりカップの酸質は、発酵槽の中で誰が働いたかで決まっている。
同じ研究で、オフフレーバーの代表である酪酸とプロピオン酸(玉ねぎ様の匂い)は、全区で不検出だった。これは実験が過発酵に至っていない証拠でもある。逆に言えば、この二つが出てきたときは、発酵は既に行き過ぎている。
発酵時間を0・24・48・72・96時間と振って官能を追った実験がある。自然発酵では48時間でウッディ、72時間で栗のような風味になった。酵母を接種した系では、最初の48時間でカラメルが増え、72時間で果実感が優勢になり、96時間ではハーブのみになった(Palumbo et al., Braz. J. Microbiol. 2024)。
96時間の「ハーブのみ」が、この研究でいちばん重要な結果だと思っている。香りが増えていったのではなく、果実感が消えて青草の方向へ振れている。発酵は一方向の関数ではなく、最適域を越えると逆行する。
開放の水洗発酵では、36時間のロットがカップ評価の最高点をとり、短すぎても長すぎても劣った(Yuan et al., Fermentation 2024)。方式で頂上の位置は違うが、頂上があることは共通している。
量的な面も見ておきたい。ミューシレージの発酵を追った実験では、Brixが15.8から8.45に減る間に、酸度は20.02かも42.69 mg/gへとほぼ倍増し、pHは4.47から4.05に下がった(Plaza-Dorado et al., Fermentation 2024)。糖と酸はシーソーの関係にある。
だから「長く発酵させれば甘くなる」は逆だ。長く発酵させれば、糖は減る。増えるのは酸と、発酵由来の香りだ。甘さを残したいなら、途中で止めなければならない。
密閉タンクを使うなら、もう一つ注意がいる。乳酸の最終濃度は底で5.06 g/L、中層で4.70 g/L、上層では2.18 g/Lと、同じタンクの中で倍以上の差が出た。さらに72時間後でも糖は残っており、「発酵時間を延ばすだけでは全糖は消費されない」と結論されている(da Silva Vale et al., Foods 2023)。
つまりタンクの上と底では、別の発酵が起きている。混ぜるか、バッチを小さくするか。どちらもしないなら、ばらつきを前提に選別するしかない。だから、私たちは袋を使って嫌気性発酵を行う。
数値で管理すると言いながらも、過発酵については匂いのほうが早い。チーズのような匂いがしたら酪酸、玉ねぎのような匂いがしたらプロピオン酸を疑う。この二つを覚えておくと、pHを測る前に手を打てる。
逆に、良い発酵のときは、ヨーグルトのような酸と、熟した果物の匂いがする。この匂いが強まっているときが、ログ期の真ん中だ。
酸の総量は増えますが、増える酸の種類が途中で変わります。適切な範囲では乳酸・酢酸・リンゴ酸などの良い酸が増え、行き過ぎると酪酸やプロピオン酸などのオフ側が出ます。
匂いが手がかりになります。酪酸はチーズや吐瀉物のような、プロピオン酸は玉ねぎのような匂いです。官能ではサワーや発酵臭として現れます。
方式で違います。開放の水洗では36時間が頂点という報告があり、密閉の嫌気では72時間前後で果実感がピークになり96時間で青草様に振れた報告があります。
pHでの見定めは発酵のpH曲線を読む、温度の話は発酵温度を1℃下げる意味、全体像は発酵の4つの段階へ。
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