同じ水分値11%まで乾かした二つのロットが、数か月後、片方はカビ臭を出し、片方は無事だった。水分計は同じ数字を指していたのに。乾燥は「ただ水を抜く工程」に見えて、そうではない。水分計の一つの数字だけを信じていると、この落とし穴にはまる。私たちは乾燥の終点を、勘ではなく二つの数字で決めている。水分値と、水分活性だ。
水分値とは、豆にどれだけ水が残っているかの割合である。11%前後まで落とす。高すぎればカビや劣化が進み、低すぎれば豆が痩せて味が薄くなる。もうひとつ大事なのは、この数字をロットの中で揃えること。バラバラだと、焙煎したとき色も香りもバラつく。乾燥ベッドで天地返しを欠かさないのは、この均一のためだ。水分計を一点だけ当てて満足すると、山の底の湿った豆を見逃す。だから場所を変えて少なくとも3度は測る。

冒頭の二つのロットの運命を分けたのが水分活性(aw)だ。awは微生物が使える水がどれだけあるかの指標であり、水分値が同じでもこれが高いとカビや酸化が進みやすい。加速貯蔵試験では、精製方式(乾式・ハニー)と保存温度で生豆の寿命が変わり、背景の水分活性が高い時間が長いほどカビ毒のリスクが上がることが示されている(Saengrayap et al., 2024)。生豆の劣化は脂質の酸化が主因で、酸価・過酸化物価・TBARS(チオバルビツール酸反応性物質)が上がり、水分と不飽和脂肪酸が減っていく(Chi et al., 2020)。だから乾燥は、awを低く抑えて劣化の入口を閉じる工程でもある。水分計だけでなく水分活性計も見る理由が、ここにある。
乾燥は速さでも味が変わる。速く乾かせば比較的クリーンで爽やかな甘さ、ゆっくり乾かせば赤ワインのような重厚感が出る。ナチュラルで1.5〜2.5ヶ月という長い幅があるのは、この時間そのものを味づくりのポイントにしているからだ。ただし、ゆっくりは危険と隣り合わせでもある。乾燥が長引くほど水分活性が高い時間が続き、カビのリスクが上がる。速すぎる乾燥は逆に、表面だけ先に乾いて内部との差が生まれ、豆が割れたり表面が硬化して中の水分が抜けきらなくなる。だから乾燥は「一気に」でも「だらだら」でもなく、一定のペースで水分を移動させることが要になる。
乾燥を「なんとなく乾いた感じ」では終わらせない。水分値が目安に近づいたら測り、水分活性も見て、両方が揃ったところで止める。ゆっくり攻めたい年ほど、毎日ひっくり返し、雨が来れば棚を閉じる。
「乾燥の良し悪しは、鼻や指先だけでは決めきれない。最後は水分値と水分活性という2つの数字で締める。」
たとえば今季のGeisha Honeyは、乾燥24日で水分値10.8%、水分活性0.57まで落として止めた。
実際のロットの数値はDATA BANKに一覧にしている。数字を残す考え方自体はData Bankとは何か、乾燥の前段で味の方向を決める発酵は発酵を数値で管理するへ。
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