発酵槽に水を入れるかどうか。この一つで、出来上がるコーヒーはかなり変わる。しかし、よく言われる「漬けると甘くなる」は正確ではない。この記事は「何が増えて、何が減るのか」だけを書く。ウォッシュドの手順や水質の話はウォッシュドプロセスとはにまとめてある。
水中発酵の利点は、温度が安定しやすいことだ。水は空気より熱を溜め込むので、日中と夜の気温差が直接発酵に響きにくい。逆に、一度上がった液温は下がりにくい。乾式はミューシレージが手につかなくなるまで、水中はミューシレージがパーチメントから剥がれるまでが目安になる。
水中発酵の有無を比べた研究がある。結果は四つに整理できる(Wu et al., Fermentation 2023)。
増えるもの。酸味が増える(発酵ありのほうがpHが有意に低い)。さらに2-メチルピラジン・フルフリルアセテートといったフルーティな香気成分が未発酵より高くなり、より強い果実香を誘導する。
減るもの。糖が減る。微生物が糖を消費するため、焙煎で香ばしさを作るメイラード反応の基質も減る。さらに揮発性成分の総量自体は低下した。つまり香りの「方向」は変わるが、量は消費されている。
だから水中発酵は、甘さを足す技術ではない。フルーティさと酸味とクリーンさを狙う技術だ。ここを取り違えると、漬ければ漬けるほど良いという間違った方向に進む。
水を多く使うほど、ミューシレージから溶け出た糖は薄められる。これは味を整える一方で、微生物のエサを奪うことでもある。エサが足りなければ発酵は伸びないし、進みも遅くなる。浸漬が酸を下げてロットを均一に整える仕組み(De Bruyn et al., AEM 2017)はウォッシュドの記事に書いた。均一さが欲しいなら浸漬を効かせ、個性を残したければ控えめにする。
発酵後の水は単なる廃水ではない。洗浄廃水から酵母を高濃度で培養し、果肉由来の乳酸菌と混ぜて発酵の種として使った実験では、外部の市販スターターなしで高い香りの評価を得ている(Plaza-Dorado et al., Sustainability 2025)。私たちが発酵液を種にするやり方はモストとは何かへ。
私たちが水中発酵を選ぶのは、クリーンさと均一さを狙うときだ。逆に、そのロットの個性を前に出したいときは、水を控えるか、嫌気側に振る。どちらが優れているという話ではなく、何を残して何を洗い流すかの選択だ。
水を使うなら、量と時間と温度を記録する。この三つがないと、良かったロットを来年再現できない。
逆です。微生物の糖代謝で糖は消費され、揮発性成分の総量も減ります。増えるのはフルーティな香気成分と酸味です。水中発酵は風味の方向を変える技術です。
多すぎると糖分が流れ出し、微生物のエサが不足します。また浸漬が長すぎると味が均一になる反面、個性が洗い流されます。狙いに応じて水量と時間を選びます。
決定的です。汚れた水で発酵・洗浄すれば雑菌やオフフレーバーの原因になります。クリーンなカップは、クリーンな水から始まります。
洗って作る方式はウォッシュド、発酵液を種にする話はモスト、pHでの見定めは発酵のpH曲線を読むへ。
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