コーヒーとワイン、どちらの製造でも「モスト(mossto)」は重要な役割を果たす。ワインでは、モストはブドウを搾った果汁で、これを発酵させてワインになる。コーヒーでは、モストはチェリーの発酵過程で生まれる果汁を指す。別々の製品でも、その生成と役割には共通点が多い。この記事では、コーヒーのモストがどう生まれ、どんな性質を持ち、豆の風味にどう効くかを書く。
モストとは、果物を加工して得られる果汁のことだ。ワインでは搾ったブドウ果汁がモストで、糖・酸・酵素・酵母を含む。コーヒーのモストは、チェリーの発酵で生まれる果汁だ。コーヒーは、ブドウのように果汁を搾れる果実ではない。ただし、ミューシレージ(果肉のぬめり)は糖が濃い。だから密閉(嫌気)してチェリーを発酵させ、自重で柔らかくなって押しつぶされることで、糖と微生物が詰まったモストがたまる。「果汁が少ない果実だからこそ、嫌気で搾り出す」と考えると分かりやすい。

ワインのモストは、収穫したブドウを搾って果肉・種・皮を分け、抽出した果汁だ。糖・酸・酵素・酵母を含み、発酵でアルコールと二酸化炭素が生まれ、熟成へ進む。コーヒーのモストは、発酵の過程で生まれる副産物で、糖・酸・有機化合物・酵素・微生物を含む。生成の道筋は違うが、「糖と微生物を含む発酵の素」という点は同じだ。
(研究ブロック:ここからは公開データの話)
適切に作られたモストには、熟したチェリーの糖と、それをもとに育った微生物が蓄積されている。発酵が進むと何が起きるかは、数値で追える。ミューシレージの発酵を計測した実験では、Brix(糖)が15.8から8.45に減る間に、酸度は20.02から42.69 mg/gへとほぼ倍増し、pHは4.47から4.05に下がった(Plaza-Dorado et al., Fermentation 2024)。糖が減った分だけ、有機酸が増える。舐めると、チェリーの甘さと酒粕のようなアルコール感、そしてピリッとした発酵感が舌に伝わる。これは、糖・酸・アルコールが同居している状態だ。つまりモストは、pH・Brix・アルコール感という数値で「今どんな状態か」を読める。

ワインはモストを発酵させてワインにするが、コーヒーではモストをスターター(種菌)として使える。発酵を始動させる微生物と酵素が豊富だからだ。この発想は、研究でも裏づけられつつある。捨てるはずの果肉から乳酸菌を、洗浄廃水から酵母をそれぞれ高濃度で培養し、混合して種として使った実験では、外部の市販スターターなしで高い香りの評価を得た(Plaza-Dorado et al., Sustainability 2025)。低コストで、廃棄物も減る。
そして「種を継ぐ」やり方はbacksloppingと呼ばれる。発酵食品の研究では、前の発酵液を繰り返し継ぐと、はじめ1%に満たなかった乳酸菌が17サイクルで優占種になった(Fermentation 2024, 10:663)。繰り返すほど、狙いの微生物が選抜されていく。利点は三つ。発酵が速く安定して進む、一貫した品質になりやすい、新たに菌を買う必要がなくコストを抑えられる。
ただし、モストは万能ではない。管理を外れたモストは、雑菌や腐敗の温床にもなる。だから使う前に、pHやBrix、匂いで状態を確かめる。良い発酵と腐敗は紙一重だ。種として継ぐなら、毎回状態を測って、狙いの範囲にあるものだけを使う。清潔な容器と低温で雑菌とカビの混入を防ぐ。数値で確かめることが、モストを安全に活かす条件になる。
モストや果肉、洗浄水は、本来は精製の廃棄物だ。それを種として回せば、外部のスターターを買わずに発酵を安定させられ、廃棄物と環境負荷も減る。大規模な設備がなくてもできる、小さな農園の強みだ。私たちはこの循環を、味の再現性と同じくらい大事なものだと考えている。
モストは、コーヒーチェリーの発酵で生まれる重要な副産物であり、豆の風味に大きく効く。ワインのモストとは生成も性質も違うが、その影響力は同じく大きい。適切に管理し、種として活かせば、質の高いコーヒーを再現性よく作れる。私たちがモストを使うのは、そこに発酵の可能性が詰まっているからだ。
違います。モストはコーヒーチェリー自身の発酵で生まれる果汁で、外部の香料や異物ではありません。前の発酵で育った微生物を次の発酵に継ぐ、発酵の種(スターター)として使います。
近づきます。種を繰り返し継ぐと狙いの乳酸菌が優占しやすくなることが研究で示されており、発酵が速く安定して進みます。ただし毎回の状態確認(pH・Brix・匂い)が前提です。
名前の由来は同じですが別物です。ワインのモストは搾ったブドウ果汁で、それ自体を発酵させてワインにします。コーヒーのモストは発酵の副産物で、次の発酵を助ける種として使います。
発酵の仕組み全体は発酵の4つの段階へ。モストを活かす方式はウォッシュドと嫌気性発酵へ。
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