嫌気、カーボニック、共発酵、サーマルショック。新しい精製の名前が毎年のように生まれ、競技会の上位を占めていく。そのたびに同じ論争が繰り返される。「あれは精製の進化だ」「いや、農園の個性からの逃げ道だ」。実際に嫌気も共発酵も仕込む農園として、この論争を逃げずに考えてみる。
批判側の論点は三つある。第一に、発酵由来の強い風味は畑・品種・標高の個性を覆い隠す。どこで作っても似た味になるなら、テロワールの価値はどこへ行くのか。第二に、凡庸な原料を派手な発酵で化粧できてしまう。第三に、価格が投機的になりやすく、一過性の流行で終わるリスクがある。どれも、真面目に農園と向き合ってきた作り手ほど強く感じる懸念だと思う。
擁護側の論点も三つある。第一に、発酵の設計もまた土地に依存する。働く微生物はその土地の常在菌であり、気温も水も土地のものだ。微生物のテロワールという研究領域さえある。第二に、低標高や無名産地の農家にとって、精製の技術は標高という変えられない条件を超える数少ない手段になる。第三に、生豆価格が歴史的高値圈にある今、付加価値の高い精製は小規模生産者の数少ない増収手段でもある。
私たちの答えは、カティモールにある。カティモールは病害に強く栽培しやすいが、ティピカなどに比べると風味は地味になりやすい。この品種をそのままナチュラルにしても、高い評価は取りにくい。しかし嫌気発酵を挟むと、同じ木の同じ実が、複雑さをまとった別物になる。これは逃げではなく、素材の可能性を引き出す技術だと思っている。
一方で、自分たちに課していることが二つある。ベースの品質を磨く手を止めないこと。ティピカのウォッシュドのような、素材を正面から見せるラインナップを必ず並行させる。そして何をしたかを全部書くこと。派手な精製ほど、透明性が価値の一部になる。
逃げ道か進化かは、技法ではなく使い方で決まると思う。ベースの品質から目を逸らすために使えば逃げ道になり、素材の可能性を広げるために使えば進化になる。同じ包丁が料理にも凶器にもなるのと同じで、道具に罪はない。問われているのは、使う側の規律である。

嫌気性発酵、カーボニックマセレーション、共発酵など、従来の三大精製の枠を超えて発酵を積極的に設計する新しい精製の総称です。定義は曖昧で、使う人によって範囲が違います。
一理あります。発酵由来の強い風味は畑や品種の個性を覆いやすくなります。一方で、発酵の設計も土地の微生物や気候に依存するため、別の形の個性という見方もできます。
両方作る立場です。基本の三大精製で畑の個性を、実験的精製で表現の幅を。どちらも数値で記録し、何をしたかを隠さないことを条件にしています。
表示の論争は共発酵とインフュージョンの見分け方、カティモールの話はナチュラル、発酵を前に出す設計の全体像は「発酵系」という言葉を分解するへ。
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