ロースターの友人からこんな相談を受けたことがある。「すごい香りのロットを見つけたが、これが発酵の仕事なのか、後から付けた香りなのか分からない」。これはいま、世界中の買い手が抱えている問題だ。共発酵を自分たちで仕込む農園として、見分けのための質問を用意した。
共発酵(コフェルメンテーション)は、果実などを発酵槽に加え、微生物の代謝を通して風味を作る。インフュージョン(風味注入)は、発酵を介さず香りの素を接触・吸収・添加で移す。両者は科学的に別の工程だが、完成した豆を見ても区別がつかないことが多い。そして一部の商品がインフュージョンを発酵由来のように見せて流通していることが、業界の論争になっている。発酵の技術に投資した生産者と、香料で近道した商品が同じ棚で競うのは公平ではない、という議論だ。
先に私たちの立場を書いておく。インフュージョンという技法そのものを悪とは思わない。問題は隠すことだ。何をどうしたかを書けばいい。書けない理由があるなら、それ自体が答えである。
質問1:何を加えましたか。果実の名前を即答できないなら要注意。作った本人は必ず知っている。
質問2:いつ加えましたか。発酵の前・最中なら共発酵。ミューシレージが取れた後、乾燥後や脱穀後なら、それは発酵ではない。この一問だけで多くが判別できる。
質問3:発酵の記録はありますか。温度・pH・時間。発酵で風味を作ったなら、監視の記録が存在するはずだ。
質問4:同じ畑の普通のロットはありますか。同じ農園の非共発酵ロットと飲み比べられれば、発酵が加えたものが見える。ベースの品質を隠すための添加かどうかも分かる。
質問5:なぜその果実なのですか。地元で手に入る、発酵と相性が良い、狙いの風味設計がある。理由を語れる作り手は、設計で作っている。
分析技術の側も進んでいる。近赤外分光や電子鼻と機械学習を組み合わせて精製方式を90%超の精度で識別した報告があり(Suleria et al., 2023)、方式や産地の判別・真正性検証の研究も蓄積されている。発酵由来の香気には代謝の指紋が残る。つまり長期的には、「発酵で作ったかどうか」は測定可能になっていく。隠すことのコストは、これから上がる一方だ。
この5つの質問に、私たちは全部答えられる。ライムといちご。発酵前に加える。温度とpHの記録がある。同じ農園のナチュラルもウォッシュドもある。地元で手に入る新鮮な果実を選んでいる。答えられることは、作り手の誠実さの最低ラインだと思う。そしてこの透明性こそが、発酵に投資してきた生産者を守る唯一の道だとも思っている。
共発酵は果実などを発酵槽に入れ、発酵という代謝を通して風味を作ります。インフュージョンは発酵を介さず香りを接触・吸収・添加で移します。科学的に別の工程です。
技法自体は悪ではありません。問題は表示です。インフュージョンを発酵由来のように見せて売ることが、価格と信頼の両面で業界の論争になっています。
難しい場合が多いです。だからこそ作り手への質問が意味を持ちます。何をいつ加えたか、発酵の記録はあるか。答えられない売り手の商品は慎重に判断してよいと思います。
ライムの実例はライムと一緒に発酵させた話、いちごの実例はいちごと仕込んだ日、線引きの科学は嫌気性発酵とはへ。
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