LAB REPORT
2026.04.27

コーヒーの収穫と選果|熟した実だけを摘むと、品質はどこまで変わるか

文・Masa
LAOS

コーヒーの品質は、焙煎や精製よりも前段階、どの実をいつどう摘むかでその多くが決まる。ラオスのLuLaLao Farmで10年、栽培から精製、乾燥までを自分たちの手でやってきて、そう思うようになった。

先に結論を書いておく。収穫の品質は、完璧な色合わせではなく、未熟と過熟を混ぜない選果で決まる。そして糖度の高いチェリーが、そのまま甘い豆になるわけではない。農園には昔から二つの言い伝えがある。熟した実だけを選んで摘めば品質が上がるということ。もうひとつは、チェリーの糖度が高いほど甘い豆になるということ。この二つが本当なのか、自分の畑でやっていることと、世界の研究とを、いちど分けて並べてみる。

きっかけは、未熟がわずかに混ざったロットでフレーバーが濁った日のことだ。あれ以来、摘む段階の選別を重く受け止めている。

農園で私がやっていること:完熟だけを選んで摘む

LuLaLao Farmでは、収穫が一度で終わることはない。同じ木を何度も見て回り、深く色づいて軽い力で外れる実だけを選んで摘む。抵抗する実はまだ早いので残す。摘んだチェリーはその日のうちに糖度(Brix)を測る(目安:20°Brix)。それから水に浮かべて、軽い実を除く。浮くのはたいてい未熟・虫食い・過発酵を起こしたものだ。乾燥まで終えた生豆は広げて、割れや黒化や未熟を手で数え、欠点率を書き留める。派手な工程はない。同じことをロットごとに繰り返しているだけだ。測った値はData Bankの測定記録に残し、パートナー農園とも同じ手順で揃えている。

熟したコーヒーチェリーを手で選別しながら収穫する様子

研究論文は何と言っているか:選果とBrixの科学

ここからは私の畑の話ではなく、査読付きの公開データの話だ。同じ問いを、世界の研究者がどう測ったかを並べる。

選んで摘むことに、意味はあるのか

コーヒーの実は熟すほど枝から外れやすくなる。ある実測では、熟果が枝から外れる力は2.5〜3.3N、未熟果は4.3〜5.3Nで、熟果は未熟のおよそ半分の力で外れた(Zhou et al., Agriculture 2025)。軽い力で取れる実が熟果で、抵抗する実はまだ早いという手の感覚は、数字とも合っている。選果の効果もはっきり出る。収穫をシーズンの盛期に合わせると、ある品種で欠点率が11%から4%へ下がり、カップの点数も約79から81へ上がった(Huang et al., Foods 2025)。ただし選別で全部は取り切れない。最適化した機械の選択収穫でも、熟果を92%除きながら未熟果が8%残り、損傷率は5.23%出ている(Yu et al., Agriculture 2023)。チェリーを摘む段階だけでなく、摘んだ後にもう一度選ぶ理由がここにある。

甘いチェリーは、甘い豆になるのか

チェリーが熟すと果皮や果汁のスクロースはほぼ倍増するが、その糖は豆(種子)には移らず、豆の糖は成熟を通じてほぼ一定だった(Baptistella et al., Plants 2024)。しっかり熟した実の中で色の進み(赤橙から深紅、ワインレッド)を比べても、カップ点に意味のある差は出ず、いずれも約82点だった(Osorio Pérez et al., Agronomy 2023)。つまり、糖度は豆の甘さではなく、実の熟れ具合を測る物差しだと考えたほうがいい。もちろん、糖度は発酵プロセスにおいて、とても重要であることには変わりはない。

見た目で分からない差は、どう捕まえるか

試料を機械学習にかけた研究では、密度と水分が官能をもっともよく予測する物理特性だった(Gonzalez-Sanchez et al., Processes 2024)。水に浮かべて軽い実を除く選別は、見栄えの話ではない。国際規範も、未熟や過熟や病果を水浮遊で除くことを食品安全の管理点として明記している(Codex CAC/RCP 69-2009)。発酵の工程を数値で見る話は、pHで発酵を見極める記録にも書いた。

農園に持ち帰る:収穫データをどう品質管理に使うか

ここから再びLuLaLao Farmの話に戻る。研究を並べてみて、二つの言い伝えのうち片方は正しく、片方は思い込みだと分かった。だからこそ何度も農園に入り、選んで摘む。いっぽう、糖度が高いから甘い豆になるとは、もう言えない。Brixは実の熟れ具合を測る物差しとして使う。

今季、選果を徹底したロットでは、乾燥後の水分値を〔実測値:12%〕、水分活性を〔実測値:0.58〕まで持っていき、欠点率は〔実測値:8%〕だった。密度も今季から測り始めている。

水に浮いたコーヒーチェリーをすくい取る浮遊選別の様子
浮く豆はたいてい未熟か欠点。水が選り分けてくれる。
私たちが追い込むのは色の完璧さではない。未熟豆をできる限り混ぜないことである。

密度やBrixの、LuLaLao Farmでの基準値は、他の産地の数字をそのまま使えない。自分の豆で確かめて決めていくしかない。だから毎ロット測って記録する。どう作られたかを数値で語るというのは、来年の自分やパートナー農園が同じ判断を再現できるようにしておくことだと思っている。規模ではなく、見極めで伸びる。私たちの豆に関心のあるロースターの方は、ロースター向けのご案内もご覧ください。


よくある質問

完熟のコーヒーチェリーだけを選んで摘むと、品質は上がりますか

上がります。選果をすると欠点は目に見えて減ります。収穫をシーズンの盛期に合わせた研究では、欠点率が11%から4%に下がり、カップ点も上がりました。熟した実は枝から軽い力で外れるので、手の感覚でも見分けられます。

コーヒーチェリーの糖度(Brix)が高いと、豆も甘くなりますか

なりません。熟すと果皮や果汁の糖はほぼ倍増しますが、その糖は豆(種子)には移りません。糖度は豆の甘さではなく、実の熟れ具合を測る物差しとして使うのが正しい見方です。

収穫したチェリーを水に浮かべて選別するのはなぜですか

浮く豆はたいてい未熟や虫食い、過発酵で、欠点やカビのもとになりやすいからです。密度と水分は生豆の風味をよく予測する物理特性で、浮遊選別は見栄えではなく、品質と安全のための工程です。

参考文献

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